都市とRomance

ワンネス

僕たちの失敗

もう10数年以上前の話

あまり思い出せないけれど、眠れない夜に任せて記録しておくね

 

 

守りたいものや譲れないものや失いたくないものが今はできた

あの頃の私にはこわいものも失うものも何もなくて、生きていることも浮世離れしているようだった

 

何度も少し狭い車両の電車に揺られた

オートロックの番号を何度押しても起きないときはできる範囲内で外で待った

 

気だるそうなその様で会う約束をしたことも、どうしてこんな私を受け入れてくれるのかも、確かに私以外にはそんなに会う女性がいなさそうなのも、あんまりよくわからなかった

 

君が深い眠りの中にいる時はドアはあかなかった

さっきも記したようにできる範囲内で外で待った

 

近くにローソンがあったのを覚えてる

子供だったけれどいつも通りのお酒を買ったりして持っていた錠剤を一気に流し込んだ

泣かないように、と思ってしたことだったと思う

そんなことをしては正反対のことが起きるのに

 

自分を傷つけたり、悲しみや苦しみや寂しさで生きてると実感することしかできなかった

子供だった私には考えないことを選択することしか自分を守る方法が見つからなかった

 

ドアが開かない日はメールを入れてまた少し狭い車両に乗って帰路についた

ドアが開かない日の数だけごめんねとかそんな内容のメールが届いた

 

広くない部屋に焚かれてたお香の香り

どのくらいの背丈かも、私を見る目も話し方も、覚えてる

多分大切にされたこともあったと思う

 

たまに待ち合わせるのは中央沿線沿い

バイクで迎えにきて、家まで連れて行ってもらう時は当たり前だけどドアが空いた

そういう日はいつもごめんなという気持ちだったのかもしれない

君のことは何も知らなかったからわからないけど

君のことを知れば知るほど何を考えてるのかわかることが嫌で何も聞かなかったから

知らないほうが楽だった

 

確か最後に会ったのはいつもと違う場所だった気がする

何を話したかも覚えてない

君との記憶はだいたいがするりと抜け落ちて解離していて覚えてないのに、どのくらいの背丈だったか、そして私を見る目や話し方はよく覚えてる

 

いつの間にか会わなくなった気がする

私が何度か断った、連絡も無視した気がする

しばらくしてから地元に帰省すると連絡が来た

絶望だった

会わないと決めたのは私だったのに

いざとなると絶望だった

そしてもう一生会えなくなるはずだと悟った

終わりだった

短くて長くて濃くて寂しくて苦しい時間を過ごした

だから終わりにしてくれてよかった

 

守りたいものや譲れないものや失いたくないものが今はできた

全ての選択が今につながっているなら間違っていたことなんてなかった

 

それがこんなにうつくしくて、何故か切なくて、心をここにとどめておけなくなるほど揺さぶられる理由はわからない

けど、そんな夜は静かにタバコを吸うのがいいんだと思う

 

うちで焚くお香はもちろん君が使っていたものじゃない

 

今となっては家族を持って暮らす父親で夫をやってる君が生きている

ドアはきっと開くし、賑やかな声や美味しいご飯が並んだりしてるのかもしれない

今も君のことはわからないまま

でも、この先もそれでいいしそれがいい

 

あの日々は子供だった私を大人にしてくれた

たくさん背伸びさせてくれた日々だった

もう既に擦れていたけど、君がドアを開けなくても私はもういいやとならなかった

 

そうさせないでくれて、多分、私はありがとうと思ってる

 

伝えることはないけれど

一生会うことはないけれど

たまに来る連絡が鬱陶しい時もあるけれど、こうして私と同じように思い出して、特に何を言うわけでもなく連絡をよこしてくる君は、

素直に、

あの頃のあんな私が、今を生きているということが幸せなのかもしれないと思った

 

もう乗ることがなくなった少し狭い車両の電車

思い出は全てあの頃にある

 

私は今を生きていて、守りたいものや譲れないものや失いたくない大切なものができたよ

 

 

おやすみ