都市とRomance

ワンネス

美しい獣 part.2

「なに?」

千尋のことが好きすぎて、ずっと見てたいの」

 

彼女が昔家族として過ごしたミシカという猫と同じ目で言う

 

火葬時には赤い薔薇で埋め尽くして、1番派手なプランでさよならを伝えたらしい

 

彼女らしいと思った

 

赤い薔薇を背中に背負い

蝶々が舞う背中

それは男達を魅了した

 

喜怒哀楽以外の愛の形をした形容できない何か、それが美しいということを初めて知った

わたしに恋をし続けて東京に出てきてくれたことを胸に抱いて生きると決めた

 

美しい獣に見えた

 

自ら壊すことしか出来なくて

わたしに一生恋をしていると告げるその美しい獣は

ヤマアラシのジレンマのような気持ちでいたと伝えてくれた

 

「本当のことを言ったり、本当に抱きたいと思ったけど、壊したくなかったから何一つ上手に出来なかったの」

「ごめんね、千尋

 

昔は寡黙すぎるほどだった美しい獣は

今となっては五月蝿いくらいよく話す

 

「ねえ、千尋

「ちょっとは黙ってられないの?」

千尋となら一生喋っていたいの、もっと千尋を教えてほしいしあたしを知ってほしいの」

「かわいいひとね」

 

傷だらけの腕が格好良く見える

そんな人は初めて見た

伏目が切なげでゆっくりと瞬きをする

ボディピアスがプライドで

ころころと男に翻弄されて

いつもわたしに叱られて

おどけてみせながらありがとうと言う

 

千尋、天才に見られたければ天才の真似をしろってルイが言ってたから千尋の真似をしてるよ」

 

彼女は美しい獣だ

 

泣きながら本当にごめんねと繰り返す

何度だって謝ってほしい

何度だって信じなおさせてほしい

 

彼女は美しい獣だ

 

押し殺す感情が崩壊して

どこかに行ってしまったあの頃の彼女と

メールをよくして電話もたまにしたらしい

酷いいじめを受けながらしたたかに生きた

ピアッシング自傷行為だったと教えてくれた

枕に顔を押し付けた4畳の部屋は暗かった

押し殺す感情と声と、それから、ね

それらを掻き分けて聞き取ったのはわたしだけだと思う

冷えた目つきの奥に子供みたいな笑顔が見えたの

 

 

誰がなんと言おうと彼女は美しい獣だ

 

 

いつまでも彼女が知らないことや

知ることが出来なかったことや

わからないことを説き伏せている

 

 

ボロ雑巾みたいになって帰ってきた数年前

 

ここで変わらないと一生変われないと覚悟をさせた

これ以上ない愛と今までにない叱咤をした

わたしが与えられる全てを彼女に与えた

ひとりぼっちにさせた時の荒れた部屋を笑い飛ばした

 

自分と本当に向き合ったのは初めてだったと思う

自分を根底から否定したのは初めてだったと思う

それでも、彼女は美しい獣だから

自分で自分を本気で脅した

 

 

「絵美、いっぱい笑うようになって嬉しいよ」

 

千尋

 

反芻する

 

「ありがとう」

 

反芻する

 

生きていることがこれほどまでに美しいなんて知らなかったでしょう?

一分でも一秒でも長く生きたいと思うなんてことが起きるなんて思わなかったでしょう?

もう壊す必要もないことも、大切の仕方もわかってきたでしょう?

 

 

わたしの知る限りの全てを教えてあげる

 

 

傷だらけな左腕が真っ赤な薔薇まみれになって

昔家族だったミシカと同じ目をして

わたしに問い続けてほしい

 

 

「どんな絵美でも愛してる?」と

そうしたら何度でも答える

「絵美はわたしにとって美しい獣だよ、伝わる?」と

 

 

したたかな美しい獣の話