都市とRomance

ワンネス

今日の幻想をみてる

まだのこってる。

いつまでもここにいたいけれどそうはいかないのでコーヒーを買いにジャージに足を通す。

ベッドに残ったぬくもりは生っぽくて切なくて、昨日見た映画のワンシーンみたい。

「朝起きたら彼はクロスワードパズルをしながらルームサービスに手をつけていて、わたし、ひょっとしたら幸せになれるのかもと思ったの」

「?、なぜあなたみたいな綺麗な人が隣にいるのにクロスワードパズルを?」

「都合のいいところしか見えてなかったみたいね」

寝起きに飲むコーヒーはミルクもシュガーも多めが好き。

スウィートなその言葉もよく似た質感も勘違いじゃなければいい。

 

たいして知らない街を抜ける電車の中。

帰宅ラッシュの手前。

乗り換えの駅は今日も驚くくらい混んでいる。

音がないのにうるさい車内でこの時間に不慣れなのは私だけみたいだ。

眩暈がする。

マイノリティーなのはどっちだ。

 

通り抜ける風。

鼻の奥がツンとする。

 

戻れないし、それなら作ればいいし、やり直せないし、それならまた始めればよかったのに。

 

駆け足で終電に乗り込むもヘトヘトにくたびれて品川に放り出されてバスに乗るかタクシーに乗るか迷うことも、朝の渋谷を千鳥足で帰ることもめっきり減って、生活スタイルが変わったことを実感する。

0時を過ぎた電車で、昨日か今日の幻想を見る人たちのソレはあたたかいのものではなさそうだった。

そこにいた私の毎日の幻想もまた、もちろんあたたかいものではなかったのだけど。

 

「ところで日が沈むのが早くなったね。そっちはどう?」
オレンジとピンクが混ざる空があそこから見えるのか知りたいから、次の週末はあの屋上がいいなとふと思う。

 

吸い込む空気の湿度が低くなった。

鼻の奥がツンとする。

夏が終わる。